予防と健康管理レポート
はじめに
今回、予防と健康の授業の一環として,レポートを書きました。レポートは授業で見たビデオの内容と,一人一人が選択したキーワードで論文を検索して選んだ論文の内容から考察をしたものです。ビデオの内容は二種類あり、それぞれアスベスト、うつ病に焦点を当てたものでした。わたしはこの2つのうち、うつ病の方により強い興味を持ったので,うつ病のビデオの内容に焦点を当ててレポートを書きました。
キーワード [mental health] [5−hydroxytryptamine]
概略
日本の0−15歳の幼児、または生徒における朝食のトリプトファン摂取と朝型,夜型の相互関係
(Tetsuo Harada, Masaaki Hirotani,Mari Maeda,Hitomi Nomura and Hitomi takeuti)
「トリプトファンは食事でしか取れないアミノ酸のひとつで、松果体にある四つの関連した酵素でトリプトプァンをセロトニン=(5−hydroxytryptamine)を経て、メラトニンに代謝することが出来ます。日光にあたることは松果体でセロトニンが合成される引き金であるように思われます。日中、脳にセロトニンが欠乏すると,いくつかの行動障害が起こります。また、外からメラトニンをいれることは,睡眠障害を起こしている患者さんに非常に有効です。以上から、高いプラズマメラトニンの濃度は睡眠の質にとても重要であるという仮説が立てられます。特にプラズマメラトニンは幼児では夜、青年や大人の数倍にもなります。よって、幼児において、朝食でとるトリプトファンの量は睡眠習慣やサーカディアンリズムに関係しているのではないでしょうか。
原田の疫学的な論文では、夜型の人は朝方の人に比べていらいらしやすく,怒りっぽいと述べています。その一般的な要因は、体内時計とのズレにあると仮説づけられます。また他の理由として,日中脳のセロトニンの濃度が低いことにあると考えることが出来ます。夜型の生徒のセロトニン濃度の低さは、朝食にとるトリプトファンの量の少なさのせいでしょう。以上から次のことが考えられました。
1・特に幼児で、朝食に取るトリプトファンの量はM−Escoreから、睡眠習慣や生物学的リズムに関係があるのか。
2・朝食に取るトリプトファンの量は日本の幼児や生徒、青年のメンタル・ヘルスに関係があるのか。
それを調べるために、日本の幼児向けに修正された、MEQ(morningness-eveningness test)と新たに作ったアンケートがこの研究に使われました。これは、0−15歳の人を朝型と夜型に分けるために使われました。アンケートは選択式で、1から4段階で朝型と夜型に分けられます。M−Escoreは七つの質問の加算で、1から4段階で朝型と夜型に分けられます。最も夜型の人で7点、最も朝型の人で28点です。対象はは0−6歳の幼児と751人の小学生,そして高知県に住む473人の中学生です。0−8歳の子供(740人の幼児と195人の小学校一、二年生)は両親(93%は母親)が代わりに答えてくれました。
M−Escoreの平均とSDは 0−6歳の657人では 20.04±3.58
6−8歳の211人では 19.79±3.48
8−10歳の214人では 17.74±3.83
10−12歳の226人では16.42±3.98
12−15歳の419人では15.33±3.79でした。
Pearson,s correlation testで 0−6歳ではr=0.180,p<0.001
6−8歳ではr=0.258,p<0.001
8−10歳ではr=0.123,p=0.071
12−15歳ではr=0.180,p=0.098でした。
すると、このアンケートで,朝型と夜型に分けられた中で、9−15歳には明らかな関係は見られませんが,0−8歳では見られました。
睡眠潜時(消灯あるいは就床時刻から睡眠開始までの時刻)が五分より短い幼児のトリプトファン摂取量は平均440mgで、睡眠潜時が六十分より長い幼児の平均302mgよりもはるかに多く、たびたび夜眠れなかったり、朝起きれない子供ほど、朝食のトリプトファン摂取量は少ないです。幼児で,怒ったり落ち込んだりする頻度は、トリプトファンの量では明らかな違いは見られませんでした。しかし、些細なことで怒ったり落ち込んだりする幼児ほど、朝型の傾向がありました。
よって、朝のトリプトファンの摂取は睡眠習慣や生活リズムを作ることがいえます。20種の基本アミノ酸の中で,トリプトファンのみが最終的に、睡眠の引き金となるメラトニンに代謝されます。朝食でとられるトリプトファンの量は日中、特に朝のセロトニン合成量に影響します。結果,セロトニンの量は夜間のメラトニンの合成量を決めます。このセロトニンの合成は主に朝の時間帯に活発になります。なぜなら夕食のトリプトファンの量はM−E score にも睡眠習慣にも影響しないことが、2005年の日本の幼児における、他の研究により明らかになっているからです。
また、朝食のトリプトファン摂取量は幼児において睡眠の始まりと終わりに影響します。朝食に摂取したトリプトファンにより大量に合成されたメラトニンは良い睡眠習慣を作ると考えられます。夕食に摂取されたトリプトファンは明日の朝のセロトニンの合成につかわれるのではなく,さまざまな一般的なたんぱく質の合成に使われることが他の研究でわかっています。朝の大量のセロトニンと、それに続く夜間の多くのメラトニンは朝型の幼児において、効率的に生活リズムを変えます.夜間の、トリプトファンから作られるプラズマメラトニンは直接,あるいはまた睡眠と起床の周期を導くslave-oscillatorと呼ばれるものの時期を通じて睡眠の質に作用します。人間において、夜間のメラトニンの量は日中の光によって左右される視交叉上核の体内時計にも関係していると考えられます。夜間のプラズマメラトニンの高まりは1−7歳では非常に高く、大人の5−8倍です。朝の脳の血液のセロトニン濃度の高まりと夜間のメラトニンの高まりは、幼児や子供には無くてはならないものです。それゆえ、朝のトリプトファン摂取量の低下は、1−8歳において睡眠の質や、生活リズムの低下を簡単に導きます。
結論として、子供にとって、日中朝方のリズムと、高い睡眠の質を保つために朝のトリプトファンの摂取は大事です。思うにそれは、トリプトファンが日中セロトニンに、そしてさらに夜間メラトニンに代謝されることによるのではないでしょうか。」
考察
この論文は私にとって非常に興味深いものでしたが、多少の疑問が生まれました。まず、この研究でトリプトファン摂取量と精神兆候、あるいは睡眠潜時とのあいだに明らかな相互関係が見られたのは0−8歳だと言う点です。0−8歳についてのアンケートの回答は両親(母親)が行っており、9−15歳が自分でアンケートに回答した点と異なっています。睡眠潜時についてはむしろ客観的ではありますが、精神兆候についてはやはり疑問が起こります。確かに0−6歳ほどの年齢だとアンケートに答えるのは難しいように思えます。ですが小学校1.2年生なら答えられないほどではないように思えます。また、怒ったり、落ち込んだりといったことは自分が感じるものなので、両親の回答よりもやはりその子自身の回答が望ましいと思われます。よって単純に1−7歳のプラズマメラトニンの高まりは非常に高く大人の5−8倍なので、幼児においてはメラトニン、ひいてはそれを合成するのに必要なトリプトファンが重要である,と結論付けるのではなく、子供自身にもアンケートを回答してもらうなどしてデータ−を比較するのが良いと思います。
しかしこの結論が正しいならば、朝のトリプトファンの摂取量から様々なことがわかることになります。この論文では、朝のトリプトファンの摂取量が、その子供の怒りやすさや落ち込みやすさ、または睡眠の質などを決めていると述べていて、これは言い換えれば、朝のトリプトファンの摂取量を測定することでその子供の怒りやすさや落ち込みやすさがわかると言うことになります。そうであるならばトリプトファンの量を考えて朝食を作ることで、その子供にとって良い精神状態になりやすくなり、睡眠潜時が縮まることで両親の育児の負担が減ることになります。
また、ビデオでも、唾液中のアミラーゼを使ってその人の精神状態を図ろうとしていました。まず、不快な刺激では唾液アミラーゼ活性が上昇し、快適な刺激では逆に低下することを見出し、それにより唾液アミラーゼによって快適と不快を判別していました。ならば唾液アミラーゼの活性の測定はうつ病の予防にもなります。唾液アミラーゼの活性は比較的計りやすいもので、100 μl 程のサンプル量ならば1 分程で採取でき、分析時間が 1 分以内で、試験紙を用いれば分析方法をシンプルにできて測定器の携帯化が可能です。このことを利用し,周期的に計ることでその人のストレスの変化を見極めることが出来、そのストレスに応じて適度に解消することで、うつ病の予防ができます。
まとめ
このようにして、物質の量や活性の変化が精神状態に関係していることがわかれば、様々な点で利点があります。
そのひとつとして一般の方々にもわかりやすいと言う点があります。「Aと言う物質が少ないとBの状態になる。」ということは単純で、しかも改善方法が明快です。このことは昨今の健康ブームにも現れているように思えます。たしかに簡単な論理には偏った見方をしてしまう側面があります。しかし、まず大事なのはうつ病がどのようなものであるか、といったことを広く知ってもらうことです。この研究も一方的な見方に過ぎず、うつ病になるほかの原因も確実に存在します。そうしてうつ病になった患者さんを治すのに、なりより大切であるのは周囲の理解です。そして理解するためにはその病気にまず興味を持つことが必要です。そのときに興味を持つ良いきっかけとなり、多くの人にうつ病のことを理解してもらえたらいいと思います。